大ロングセラー『星の王子さま』
大きな災害など、非日常の事態に見舞われると「絆」という言葉の大切さを多くの人が言及します。
この「絆」ですが、その深め方・結び方について、あの”名作”が、答えを出してくれています。
『星の王子さま』という作品がります。1943年にアメリカで出版されたこの小説は200以上の国と地域で出版され、総販売部数1億5000万部を超えるという超ロングセラーになっています。
著者のサン=テグジュペリが、リビア砂漠で飛行機墜落事故にあった体験を元にしたと言われるこの物語は、寓話の体をとりながら、(子どもの心をなくしてしまった)大人に刺さる様々な人生の教訓が散りばめられています。
(私もふと本棚を探してみたのですが、少なくとも4冊見つかりました(笑)。売り上げにだいぶ貢献しているようです。)
物語は、サハラ砂漠に不時着してしまった操縦士の「ぼく」と、小惑星からやってきた「王子様」が出会い、言葉を交わしていく形式で進んでいきます。
散りばめられている教訓
「王子さま」からは、砂漠の真ん中で飛行機を修理しようと奮闘する「ぼく」の隣で、様々なエピソードを語ります。「王子さま」の話には↓のように多くの人物が登場し、それぞれに興味深い話が用意されています。
- 王様
- 自惚れ屋
- 呑兵衛
- 実業家
- 点燈夫
- 地理学者
- ヘビ
- バラ
- キツネ ……
その一つ一つに、考えさせられたり、ハッとさせられることが多く、しかも何度読み返しても新しい発見があります。
今回は、数あるエピソードの中でも、キツネを取り上げてみましょう。
このキツネが「絆」について教えてくれます。(今の、私に刺さる話でもあります)
絆を結び深めるその方法
(集英社文庫から発行されている池澤夏樹氏による翻訳版から、いくつか引用します)
キツネと出会った「王子さま」は、友達になろうと近づきます。でも、キツネの返事はつれないものでした。
「きみとおれは遊べないよ」とキツネは言った。「俺は飼い慣らされていないから」
王子さまはキツネの返答に不思議に思います。「飼い慣らされていない」? とは、何を言っているのでしょう?
「みんなが忘れていることだけど」とキツネは言った、「それは、絆を作る、ってことさ…」
キツネの答えは「飼い慣らす」とは「絆を作ること」でした。
それができていない、というのです。
キツネはどういうことか、説明を始めました。
「いいかい、きみはまだおれにとっては10万人のよく似た少年たちのうちの一人でしかない。きみがいなくたって別にかまわない。おんなじように、きみだっておれがいなくてもかまわない。
きみにとっておれは10万匹のよく似たキツネのうちの1匹でしかない。でも、きみがおれを飼い慣らしたら、おれときみは互いになくてはならない仲になる。
きみはおれにとって世界でたった一人の人になるんだ。おれもきみにとって世界でたった1匹の……」
キツネにとって、今は、王子さまは、たくさんいる人間のうちの一人にすぎない、というのです。
そして、王子さまにとっても、キツネはたくさんいるキツネのうちの一匹に過ぎない……。
お互いにその他大勢のなかの一人と一匹。
でも、その関係は、変えることができる、というのです。
「おれはニワトリを狩る。人間がおれを狩る。ニワトリはみんなよく似ている。人間もみんなよく似ている。だからおれはちょっと退屈してるんだ。でももしきみがおれを飼い慣らしてくれれば、おれの暮らしに日が当たるわけさ。
(中略)
おれはパンは食べない。小麦なんかおれには無用だ。小麦の畑はおれに何も訴えない。これって悲しいことだ! でもきみは金の色の髪をしている。きみが俺を飼い慣らしらどんなに素晴らしいだろう!
小麦は金色だから、おれは小麦をみるときみを思い出すようになる。小麦畑を渡る風を聞くのが好きになる……」
キツネは語ります。
退屈だった日々も、「飼い慣らされる」ことによって、違った風景を見せると。
そして、今まで自分にまったく関係なかったもの(=小説では”小麦”)に対しても、絆を作った対象を通して興味を持つことができるし、それ(小麦)を見ることが好きになってしまうと言うのです。
キツネは王子さまに自分を「飼い慣らして」くれるように迫ります。
でも、王子さまはなかなか首を縦に振りません。
王子さまはキツネに
- 友だちを見つけなければならない
- いろいろと学ばなければならない
- だから、きみを「飼い慣らしている」時間がない
と告げるのです。
でもキツネは続けます。
「飼い慣らしたことしか学べないんだよ」とキツネは言った。「人間にはものを学ぶ時間なんかない。人間は出来上がったものを店で買うだけだ。
でも、友だちを売っている店なんかどこにもないから、だから人間にはもう友だちはいない。友だちがほしかったら、おれを飼い慣らしてくれ!」
飼い慣らし、絆を結んだものからしか人間は学ぶことができない。
そして、人間は時間がないと言って、出来上がったものをお店で買うだけ……。で
も、お店で友達は売っていない、だから友だちができない。
キツネは王子さまに、友だちが欲しいなら「飼い慣らす」しかないと諭します。どこかにポッと友だちが湧いて出てきてくれるわけではないのです。
王子さまは、キツネにどうすればいいのかを尋ねます。
「なにより忍耐がいるね」とキツネは言った。「最初は草の中で、こんな風に、おたがいちょっと離れて坐る。おれはきみを目の隅で見るようにして、君の方も何も言わない。言葉は誤解のもとだからね。でも、毎日少しずつ近くに坐るようにしていけば……」
(中略)
「午後の4時にきみが来るとすると、午後の3時にはおれはもう嬉しくなる。時間がたつにつれて、おれはいよいよ嬉しくなる。4時になったら、もう気もそぞろだよ。
幸福っていうのがどんなことかわかる! でもきみの来る時間がわかってないと、何時に心の準備をすればいいかわからない……習慣にすることが大事なのさ」
キツネは「答え」を出しました。
- 根気強く
- 始めは離れたところから
- 少しずつ近づいて
- 毎日会いに行く
すると、絆を結び、幸福がどういうものかわかる。これがコツだというのです。
そして、王子さまは、今まで宇宙を旅してきた中で、自分が絆を結んだ「バラ」の存在を思い出すのです。
誰と?(何と?)絆を結ぶ?
このキツネは、私たちに多くのことを教えてくれました。
- 何事も初めは絆を結んでいないこと。
- しかし、絆を結ぶ方法があること。
- 根気強く、少しずつ、毎日会いに行く(続ける)こと。
- 絆を結ぶことでしか得ることのできない幸せがあること。
これは、「自分にとって大切な人」とは?「自分にとっての天職」とは? ……などの悩みにも当てはまるのではないでしょうか?
大事なことは、
最初から、絆を結んだ人(や物事)はない
ということです。
毎日、少しずつ関係を続け、深めることによって、絆を作る
しかない、ということです。
そうであるならば、私たちは、「絆を作った」ものがない、と嘆くことはありません。
絆を作ったものが簡単に見当たらないのは当然のことなのです。
問題は、これから、何と絆を作っていくか、という選択なのです。
キツネから王子さまへ贈られた名言「大切なものは目には見えない」
キツネと絆を結んだ王さまですが、別れがやってきます。
別れの際、キツネが王子さまに『星の王子さま』の数ある名言のなかでも有名な、この言葉を贈りした。
「大切なものは目には見えない」
(読み返すまで勘違いしていました。この名言は「キツネ」が「王子さま」に贈り、それを「ぼく」に伝えた言葉だったのです。最初に語ったのは「王子さま」ではなく「キツネ」だったのです。)
絆を結ぶことによって、起きる関係性の変化。他人からは、まったく理解されなくても、当人にとっては重要なもの。確かに、目には見えません。
私たちは、これから、何と絆を結ぶ「選択」をしていくのでしょうか?
★今日の試してみたいことメモ★
- (もしあれば)『星の王子さま』をパラパラとめくってみる。
- 自分にとって、「飼い慣らされた」ものが何か(人・事柄など)考えてみる。
- そして、これから「飼い慣らしていきたい」ものが何か考えてみる。
- 「飼い慣らした」場合、どのような変化が生活に起こるのか、想像してみる。