接触の8割削減を求めるシミュレーション結果
新型コロナウイルス感染症に対して、感染者数を抑えるためには、隔離が有効だと情報が発せられるようになりました。
そして、北海道大学の「8割おじさん」こと西浦博教授からは、「接触の8割減」が新型コロナ感染症の早期の拡大抑止には不可欠、とのシミュレーション結果が出てきています。
様々なメディアで、西浦教授の試算したシミュレーションを参考・引用した図が出てきています。
例えば、以下のような図です(3枚引用します)。
「接触7割減」では収束まで長期化 北大教授が警鐘(日本経済新聞)
日本経済新聞で紹介された図です。
感染拡大を抑制できるレベルにまで抑えるには、8割減の場合で15日間程度、7割減の場合で34日間程度。潜伏期間を考慮する場合、8割減で1か月程度、7割減で2か月程度が必要という試算です。
新型コロナ感染拡大、接触6割減でも感染者数減らず(TBS NEWS)
TBS Newsで紹介された図です。
6割の接触減では、感染者数が減らない予想が立てられています。
新型コロナ、厳格な外出制限を 接触8割減で急速に減少―北大教授が試算(JIJI.COM)
時事ドットコムで紹介された画像です。
対策をしなかった場合と、8割の接触減を行った場合、そして、2割の接触減を行った場合のシミュレーションが立てられています。
2割の接触減だけでは、新規の感染者数をほとんど抑え込むことができないことをことが示されています。
これらのシミュレーション結果も受けて、政府は、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減する」ことで早期の収束に向かわせたいとのことです。
ただし、7割~8割というのは、政府が「科学的見地(シミュレーション)」に「政治判断」を加えて決定された目標で、西浦教授は、明確に、「人との接触が6割、7割減少でいいなんて、少なくとも私は言ったことがありません。」と発言されています(BuzzFeed JAPANの取材にて)。
そして、取材の中で、以下のようにも発現されています。
不思議なことに「基本再生産数が2.5として、医療機関や性風俗のことを考えると、80%減でないと2週間で減らない」というシミュレーションの資料を作っていたのですが、私の知らないところで諮問委員会の資料の数値が書き換えられていたのです。
基本再生産数が2.0と、私が作った資料より感染力を低く見積もっての数字になっていたので、「これで大丈夫なのか?」という問い合わせを事前に尾身先生からいただきました。
もし、この資料が表に出たならば、僕は自分で「あくまでも8割であり、こういうシミュレーションを僕は出していない」と話そうと覚悟していました。
「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由(BuzzFeeD JAPAN)
再生産数とは、一人の感染者が、何人に感染させるか、という数値で、欧州では平均2~3人と言われています。
西浦教授は2.5でシミュレーションを組んだところ、いつの間にか、数値が「2.5」→「2.0」に、より感染力を少なく見積もって計算された資料が出来上がっていた、というのです。
結果に手を加えても、ウイルスは忖度してくれない。
この話を聞くと、私は、第二次世界大戦のときのミッドウェー海戦に対するシミュレーション(図上演習)を思い浮かべてしまいます。
図上演習において、ミッドウェー攻略作戦の最中に米空母部隊が出現し、艦隊戦闘が行われ、日本の空母に大被害が出て、攻略作戦続行が難しい状況となった。審判をやり直して被害を減らして空母を三隻残して続行させた。
空母加賀、赤城は爆弾9発命中判定で沈没判定となり、宇垣纏連合艦隊参謀長は「9発命中は多すぎる」として爆弾命中3発に修正させ、赤城を復活させた。攻略は成功したが、計画より一週間遅れ、艦艇の燃料が足りなくなり、一部の駆逐艦は座礁した。宇垣は「連合艦隊はこうならないように作戦を指導する」と明言した。
また、攻略前に米機動部隊がハワイから出撃してくる可能性はあったが、図上演習でアメリカ軍を担当した松田大佐は出撃させることはなかった。
自軍にとって悪いシミュレーション結果が出た場合に、後から人間が手を加えて結果自体を「失敗」から「成功」に変えてしまったのです。その結果は……。
経済と命の間での難しい舵取りが続いていることは、報道等でも繰り返し見聞きするところです。ただ、シミュレーション結果に手を加えて都合の良い成果を強調したところで、ウイルスは忖度してはくれません。
そのことだけは忘れないようにしたいと思います。